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これまでの背景
BCL-2阻害薬
BCL-2蛋白がCLLに強く発現し、アポトーシスを阻害している。ベネトクラクス(Venetoclax)は経口のBCL-2阻害薬であり、再発難治性のdel(17p)変異のあるCLLに対して当初適応されていた。
Phase3のMURANO試験では、リツキシマブを使用後再発のCLLに対してPFSが従来の免疫化学療法を上回る結果となり、高齢者のCLLの初回治療ではベネトクラクスとオビヌツズマブを用いた治療で、従来の免疫化学療法よりもPFSがよかった。
ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬
また、ブルトン型チロシンキナーゼはB細胞のシグナル経路の受容体に重要な分子であり、CLL治療のターゲットとして経口のブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤であるイブルチニブが広く使われるようになった。
多施設での第3相試験ではイブルチニブをベースにした治療が免疫化学療法に比べてPFSがよく、また年齢や免疫化学療法の強度によらない結果となった。
アカラブルチニブ(Acalabrutinib)はブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬の2世代目であり、CLLの再発と初回の両方の治療薬として適応がある。
CLLの早期治療に関しては明らかなデータはないため、CLLの基準に従って病状が進行し治療を必要とした場合にのみ治療開始となっている。
これまでの免疫化学療法は寛解を得るために数コース施行し(典型的には6回)、寛解中も観察し、進行や再発の病変に対しては再治療をおこなっていた。これは免疫化学療法では多くの患者は治癒できないとされていたからである。
ベネトクラクスをベースとした治療は強力にCLL細胞を取り除くため、継続療法を用いることで深い寛解を得ることができる。
再発や進行例に対しての再治療のデータはすくない。ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬は効果が高く、バルキー病変を少なくすることや結節性病変によく効く。深く寛解を得られることもすくないが、長期的に治療を行い、進行するまでは治療を継続する。
ベネトクラクスをベースとした治療もブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬をベースとした治療も、del(17)pやTP53変異のある高リスクCLLに有効であり、IGHV変異のないCLLにも効果がある。
ベネトクラクスやブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬ベースの治療は両方とも特徴的な副作用があり、治療適応を考えなければならない。
初回治療を選択する上で
CLLの初回治療を選択する上で大事なことは、年齢、合併症、TP53変異とdel(17p)があるかどうか、IGHV変異があるか、治療のゴールはどこかを考えることです。
加えて心疾患の既往があるかどうか、ほかの内服薬、腎機能障害、CLLの程度、患者の財政面などが重要である。
症例1
高血圧と冠動脈疾患のある77歳CLL患者に対して、ベネトクラクスベースの治療を行った。この症例はIGHVの変異があり、また高齢で心疾患の既往があることからブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬よりもベネトクラクスを選択した。IGHV変異のある患者ではベネトクラクスを用いた治療で寛解が期待できる。
TLSの予防
先程の77歳患者では、CLL14試験のレジメンに則ってベネトクラクスベースの治療をおこなった。
1コース目はオビヌツズマブ単剤療法であり、アロプリノールを1コース目の前に内服開始された。治療開始後リンパ球症は速やかに改善し、オビヌツズマブ単剤療法を行うことで腫瘍崩壊症候群(TLS)のリスクを減らすことができる。
またヘルペスウイルス予防薬を治療開始前から投与を始めたが、ニューモシスチス肺炎予防や真菌予防を当初から行うことについてははっきりしていない。
2コース目でベネトクラクスを開始するが、開始前に体幹部CTでTLSのリスクを評価するべきである。
オビヌツズマブの1コース目は多くの患者でリンパ球症を改善するが結節性病変の改善程度は様々である。したがってCTは1コース目終了後、2コース目前に撮影するのが著者の見解である。
ベネトクラックスの増量は2コース目から開始するが、程度に応じてTLSのモニタリングを行う。
初回治療での固定治療期間は1コース目のオビツヌツマブday1から開始し、ベネトクラックスの増量は1コース目のday22から開始する。
治療は12コースあり、最初の6コースはオビヌツズマブが含まれ(全8回投与)、12コースまではベネトクラックス(28日コース)が行われる(CLL14試験デザインによる)。
CLL14試験の年齢中央値はやや高齢の72歳、TP53変異もdel(17p)もなく、IGHV変異がある患者の場合、CRは51.3%、血中未検出MRD率は73.7%、24カ月PFSは1年間の固定治療期間で90%程度だった。
24カ月PFSについては免疫化学療法とベネトクラクス療法で有意差はなかったものの、未検出MRD率については74%と43%で有意差があった。
グレード3以上の好中球減少、感染症の割合については両群で有意差はなく、またOSに関しても有意差はなかった。
症例2
60歳の男性、週2回の寝汗あり。4~5年前にCLLと診断され、両側に触知可能な2㎝の腋窩リンパ節腫脹あり。del(17p)陰性、TP53 wild-type、IGHV変異なし。
進行性の血球減少をみとめ治療を要するCLLであった。免疫化学療法、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬、ベネトクラクスをベースとした治療の中で選択を考える。
免疫化学療法の中で効果的なものはFCRであり、FCRによるPFS中央値は約55カ月である。しかしMDSやAMLなど二次的な血液腫瘍のリスクがあり、3~5%で生じるといわれる。
第3相試験ではFCRとイブルチニブ(チロシンキナーゼ阻害薬)+リツキシマブの初回治療について、70歳以下の未治療患者に対し研究が行われた。この試験ではイブルチニブ+リツキシマブ群がFCR群よりもよいPFSを示した。
また、イブルチニブをベースとした初回治療での継続治療では5年間PFSは70%、ベネトクラクスベースとした1年間の固定治療では2年間のPFSは88%が見込まれるため、本症例ではベネトクラクス+オビヌツヅマブ療法が選択された。
ベネトクラクス関連の好中球減少について
アロプリノールを1コース目前に内服開始し、体幹部CTでTLSの評価をおこなった。ベネトクラクスの増量は2コース目開始時に400mg/dayで行い、添付文書を参照した。200㎎/day投与時の好中球絶対数は467個/μLであり、G-CSFを投与することで増量中も100個/μL以上の好中球数を維持した。
治療開始から3カ月間ベネトクラクスの中断なく、目標量を維持できた。
間欠的なG-CSFはモニタリングが要るため、ベネトクラクスの目標に達したあともG-CSFは中断せず、好中球数を維持した。100個以上/μLを維持する理由は、CLLの骨髄障害が初期に高く、ベネトクラクスの目標用量を維持することで骨髄が回復し、よりよい血球回復がえられるからである。
CLL14試験ではオビヌツヅマブ+ベネトクラクス療法を受けた患者のうち53%でグレード3以上の好中球減少があり、14%で血小板減少を認めた。またこの研究では18%にグレード3以上の感染症を認めている。
筆者の経験では、ベネトクラクス開始から3~4カ月以上G-CSFで回復しない好中球減少が続いた場合にベネトクラクスを減量する。
CLL14試験ではオビヌツズマブ投与時のグレード3以上のinfusion reactionは9%でみられた。
血小板減少は多くはないものの、グレード4の血小板減少でベネトクラクスの投与量を減量した。
ベネトクラクスはCYP3A基質であり、アゾール系の抗生物質などのCYP3A阻害剤を併用すると増強する可能性があるため、強力なCYP3A阻害薬と併用する場合は50%~75%の減量が必要である。
未検出MRD(uMRD)と寛解
CLL14試験では、オビヌツズマブを6コースまで使い、ベネトクラクスを12コース目まで使った後にCT、血算、血液の微小残存病変の評価を行う。大体のPFSと治療終了時期を見積もることができる。3~6カ月ごとに病院でフォローの血算をモニタリングするが、CTや骨髄の評価はフォローでモニタリングする必要はない。
再発難治例に対するCLLの治療
症例3
75歳男性。高血圧がある。CLLは5年前に診断され、del(17p)変異のあるCLLに対してイブルチニブを3年前に開始した。有害事象なく経過していたが、最近になって血球が上昇傾向である、頸部リンパ節に新規の2㎝大の病変を触知されるようになった。del(17p)とTP53変異あり、IGHV変異なし、BTK変異がある。
この患者はイブルチニブ抵抗性CLLでありBTK変異を認めた。TP53変異があるため免疫化学療法は使用できない。BTK変異があるためほかのブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬への変更はできず、またほかのB細胞受容体のシグナル経路を阻害する薬剤も効果がないとされる。
ベネトクラクスを用いた治療はブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性のあるCLLでも奏功を示しており、本症例にもよい選択である。
再発難治のdel(17p)CLLに対してベネトクラクスの単剤療法が最初に承認された。
このケースではあてはまらないが、リヒター転移の疑いがあればPET-CTを施行し生検を行うべきである。
ベネトクラクスと抗CD20モノクローナル抗体による再発難治CLLの治療
ランダム化臨床比較試験では示されていないが、著者の意見としては抗CD20モノクローナル抗体がベネトクラクスの治療効果を向上させる。
そのため、この患者にはMURANO試験と同様にベネトクラクス+リツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)で治療を開始した。
イブルチニブを投与していたがCLLが進行したため、イブルチニブを継続している患者で中断するとみられるCLL disease flareを避けるために、ベネトクラクス増量までイブルチニブは継続した。
イブルチニブの増量は最初に開始され、リツキシマブは2コース目に400㎎/dayまでの用量で開始することとした。
CD20モノクローナル抗体としてリツキシマブのかわりにオビヌツズマブが考えられるが、現在再発難治例のCLLに対しては承認を得られていない。
リツキシマブはMURANO試験と同様に月6回投与された。MURANO試験では24コースの固定治療期間が検討されているが、
- TP53欠失がある場合
- ベネトクラクス24コース後もMRDがある場合
は、24コース後もベネトクラクスの継続を検討する。
現在と未来への展望
CLL14試験では高齢者が対象に組み込まれたが、筆者は若年者にも適応できると考えている。骨髄と血液のuMRDはPFSとOSの長さと関係しており、ベネトクラクスベースの治療では無治療期間のある固定期間療法を治療の目標としている。
再発難治CLLの患者において、ベネトクラクスベースの治療で低いCR率と短い奏功期間に関連する因子としては、5㎝以上のバルキー病変があることと、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性であることが挙げられる。
短い奏功期間についてはTP53変異とNOTCH1の変異も関連する。
これらの患者ではallo-SCTを考慮する。また、長い奏功期間はuMRDの達成率と関連している。
再発難治のCLLに対してリツキシマブ+ベネトクラクス終了後にベネトクラクス単剤を続けることも考慮されるが、24コース終了後もMRDがある場合やTP53 変異がある場合はベネトクラクスを中止後に進行する可能性が高いからである。
今後のキーワードとしてはリヒター転移、CLLのクローン化、難治性疾患のリスクを減らすことである。
またBCL-2阻害とBTK阻害薬の併用も考えられており、BCL-2は骨髄や血液の病変に有効であるのに対してBTK阻害薬は結節性の病変に有効であるからです。
この併用での効果は初回治療、再発難治CLLの療法で示されてきています。
抗CD20モノクローナル抗体の役割や、奏功を予測するマーカーや、再発難治例に対してどのようにマネジメントするかなどはまだ課題となっています。
現在ランダム化比較試験としてベネトクラクス+オビヌツズマブ vs ベネトクラクス+チロシンキナーゼ阻害薬が計画されている。
そのほか重要な点は分子標的療法にはプラトーがあるということであり、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬の治療では継続することによって長い間寛解が得られるが、治療を中断するには至らず抵抗性を獲得していまうことが懸念される。
ベネトクラクスの治療では最適な暴露期間は定義されていない。
再発難治のCLLはより増殖性の強い疾患であると考えられ、より深い寛解が必要である。ベネトクラクスはCLLの量を減らしアポトーシスの閾値を下げるため、ほかの治療薬とシナジー効果があると期待される。
結論
- ベネトクラクスはdel(17p)やTP53変異のあるCLLや免疫化学療法に抵抗性のCLLに対して効果がある。
- ベネトクラクスの開始時と増量時にはTLSのリスク評価と対策が必要。
- ベネトクラクス療法は忍容性が高く、副作用もすくない。
- 抗CD20モノクローナル抗体との併用で効果を高めることができ、長期間固定治療は再発難治のCLLと初回治療の両方で推奨される。
- 初回治療におけるオビヌツズマブ+ベネトクラクスと再発難治におけるリツキシマブ+ベネトクラクスはデータがあるが、再発難治に対するオビヌツズマブ+ベネトクラクスのデータはない。
- ベネトクラクス療法を受けた患者の多くでMRDの未検出を達成できている。
- 近年は短い固定期間両方で未検出MRDを達成するためのレジメン研究がされている。
CLLの治療について。主にCLL14試験に基づいたオビヌツズマブ+ベネトクラクス療法の解説。再発難治例についてはリツキシマブ+ベネトクラクス療法。TLSや副作用のマネジメントなど。